九谷焼の作り手における男女比考察


「九谷焼の作り手における男女比考察」

有識者っぽい件名で書き出すことになりましたが、これは九谷焼がどうのこうのという話でもなく日本のモノづくりにおける女性の活躍にますます輝きが増してきているというお話です。

生業として、夢として

ここ数年、ご縁を頂き九谷焼の新たな作り手を育成する石川県立九谷焼技術研修所にて年に1度、授業をさせて頂いている。この研修所に通う生徒さんは地元石川県はもとより全国各地から入所されています。教育の場ですが色々な目的や夢を持った幅広い年代が通う職業訓練校といった感じでしょうか。基本的には「本科」と呼ばれる2年間で九谷焼の絵付もしくは素地の成形を学ぶコースに属し日々、技術を学ぶというコースをメインとし、既に九谷焼の仕事に就きながらも通うことのできる実務者コースと呼ばれる週1回通うコースの2コースで構成される。私自身も10数年前に後者の実務者コースで1年間、九谷焼の基礎を学んだ卒業生となります。

さてこの研修所、毎年、授業をさせて頂き思うのは圧倒的に女性の方が多いということです。もちろん男性も在籍しているのですが男女比でいうと近年では3対7といった感じでしょうか。この比率大きく変わることはあまりないと思います。ただ、あるタイミングでは若干、男性が多くなる時代もあります。いわゆる不景気と呼ばれ求人が少ない時期には男性比が少し上がるようです。

小見出しにも書きましたが研修所で学ぶ目的は大きく2つに分かれます。一つは職業として九谷焼製造を生業としていくことを目的に技術を学ぶ方、そしてもう一つが芸術家、いわゆるアーティストとして大成していくこと夢見る方になります。

一般的に男性は前者、女性は後者を目的とし学ばれているイメージです。もちろん男性でも卒業後は独立した陶芸家として自立していくことを意識しながら学ばれている方もいらっしゃいます。ただやはり卒業後すぐに独立することは資金や場所、販路などのいくつもの障壁があり簡単なことではないことも事実です。

僕の授業では、この辺の卒業した後のお金の捉え方や販路の開拓、小売店等の販売先との付き合い方などを現実問題としてお話させて頂いている。3時間ほど話すのだが内容的には夢のない話となってしまうのが心苦しいところです。

一昔前、作り手はなんらかの組織に属していなければ自分の作品を発表する場もなかった時代がありました。そこは男社会であることは間違いなくごく少数の女性の作り手さんが孤軍奮闘し女性のモノづくり参画への可能性を死守してきた時代があり、そして現代に・・・時代は変わり個人が情報発信できるインフラが普及した今、組織という枠ではなく「個」が主体となる表現が可能になった今、女性の作り手さんに脚光が注がれるようになっています。

ここまで話して先に描いた僕の授業の内容に戻りますが男性は現実問題に直面する時期が女性に比べ早い段階でやってきます。それは社会的な立場であったり自分自身の人生設計においての収支を考えた場合、同年代の一般的な社会人と比べると棘の道であることを知ることになるから。30歳を超えると周りは家庭を持ち役職に就きだす頃には先の見えない自分に怖ささえ感じることでしょう。

人手不足と言われる現代において怖さに耐えることよりも他に職を求めることは自然な流れだと言えます。一方、女性においてはもちろん男性同様、色々な不安を抱えて独立に向かうことになりますが、客観的に見て男性よりも女性の方がセルフブランディングに長けていることが陶芸家としての道に光がある要因となります。

SNSや自己発信するコンテンツというのは間違いなく男性よりも女性の方が使いこなせるツールであること、そして発信者自身が他者が持ち合わせないコンテンツを有することが優位になるツールの中で陶芸経験者というコンテンツは可能性にあふれている。

後継者不足と人出不足の誤解

伝統工芸業界にしても他の製造業にしても後継者不足が問題と言われているが、後継者がいるから解決できる問題でもなく、むしろ大きな問題は人工減少による人手不足が大きな要因であることを意識しなくてはいけないと思う。一昔前、職人=男性いう構成は今は昔の話であり、モノづくりに携われるマンパワーの確保ということであればセルフブランディングで自走できる女性の参入は重要な位置づけとなってきます。女性が持つ社交性や華やかさ、そんな部分が伝統の中にある揺るがない本質と出会うことで新たな魅力を見出すきっかけを得ることが時代を生き残るキーになると思います。
幸い九谷焼は才能あふれる女性の作り手さんが年を増すごとに増え新たな九谷焼の魅力を伝え続けてくれていることにこの業界に関わる者として感謝するばかりです。

九谷焼専門店 和座本舗
http://www.wazahonpo.jp/